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日本最大規模の環境DNA調査で沿岸魚1,220種を検出 ―海流が沿岸魚類の分布を形づくる仕組みを解明 ―【生物多様性科学研究センター】

2026.02.17 |

日本全国528地点の環境DNA調査×大規模データ解析で解き明かす、日本沿岸魚類の分布構造。


東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)の長田穣准教授をはじめ、千葉県立中央博物館・北海道大学・京都大学・神戸大学・九州大学・島根大学・龍谷大学・鹿児島大学・かずさDNA研究所らからなる共同研究グループ(※)は、日本全国528地点に及ぶ大規模な環境DNA調査を実施し、沿岸魚1,220種を検出しました。本研究成果は、科学総合誌『Scientific Reports』(Springer Nature社)に掲載されました。
(※)本学からは、生物多様性科学研究センター長の山中裕樹教授(本学先端理工学部)が参画。

参照:プレスリリース(2026年2月17日配信)

◉日本全国で調査した前例のないスケール
近年、気候変動や人間活動の影響により、魚類の分布変化が世界各地で報告されています。しかし、広域にわたる生物分布を一度に把握することは、従来の調査手法では極めて困難でした。
本研究では、環境DNA手法(水中に放出された生物のDNAを分析することで、生物の存在を網羅的に把握できる技術)を用い、日本全国の沿岸528地点で採水調査を実施。夏の3か月という短期間で、合計1,220種もの沿岸魚種(複合種を含む)を検出しました(図1)。これは、現在論文で報告されている日本沿岸魚種の約44%にあたります。

図1. 調査が行われた地点(左図)と各調査地で検出された種数(右図)。多い地点では一度の調査で118種もの魚種を検出した。右図は箱ひげ図と呼ばれ、箱が四分位点を、中央の太線が中央値を表す。この太線の位置によって各地域の種数を直感的に比較することができる。また、箱の大きさによって各地域内で種数がどのくらいばらついているかを調べることができる。

◉魚類の分布を決める「隠された」環境変数を解明
研究チームは、この膨大な分布データを最先端の解析手法で分析。その結果、日本の沿岸魚類の分布には、黒潮や親潮などの海流が複雑に関与していることが明らかになりました。
海流は、魚を運ぶ「輸送」、移動を妨げる「障壁」、生息しやすい環境をつくる「環境形成」といった複数の役割を同時に果たしており、これらが組み合わさることで、日本沿岸の魚類相が形づくられていることが示唆されました。

特に解析からは、日本の沿岸魚類には5つの地理的境界線が存在する可能性が示され、暖流・寒流の働きが日本沿岸の魚類相の構造を左右していることが推察されました(図2)。

図2. 環境DNA調査から沿岸魚類の分布に影響していると推定された「隠された」変数。左図の変数1は主に暖流によって、右図の変数2は寒流によって魚類相が変化していると考えられる。赤い太線は生物の組成(生物相)が大きく変化する地理的境界線を表す。

◉環境DNAが拓く、生物多様性モニタリングの未来
環境DNAは、地域の生物相を継続的に把握するモニタリング手法として注目されています。日本では、生物多様性観測網「ANEMONE」も始動しており、国際的にもネイチャーポジティブの実現に向けた科学的基盤として期待が高まっています。
今回の研究は、環境DNAと先端的データ解析を組み合わせることで、広域スケールでの生物多様性理解と将来予測が可能になることを示しました。

当センターではネイチャーポジティブ社会実現のために環境DNA分析の社会実装を進めています。地域の生物多様性情報をしっかりと把握することで、私たちを支えている自然資本の状況を評価できます。そうした社会にとっては生物多様性情報のインフラ整備が不可欠ですが、滋賀県などの地域を超えて国や世界のレベルでこうしたデータが蓄積できる可能性を示した本研究は、私たちが検証しようとしている地域でのネイチャーポジティブ社会実現のモデルをより広い空間に展開しうることを予感させる、大変重要な成果です。

【発表論文】
タイトル:Large-scale environmental DNA survey reveals niche axes of a regional coastal fish community
著者:(*責任著者/下線は本学教員)
Yutaka Osada*, Masaki Miya*, Hitoshi Araki, Hideyuki Doi, Akihide Kasai, Reiji Masuda, Toshifumi Minamoto, Satoquo Seino, Teruhiko Takahara, Satoshi Yamamoto, Hiroki Yamanaka, Mitsuhiro Aizu-Hirano, Keiichi Fukaya, Takehiko Fukuchi, Ryo O. Gotoh, Masakazu Hori, Midori Iida, Tomohito Imaizumi, Tadashi Kajita, Takashi Kanbe, Tanaka Kenta, Yumi Kobayashi, Tomohiko Matsuura, Hiroki Mizumoto, Hiroyuki Motomura, Hiroaki Murakami, Kenji Nohara, Shin-ichiro Oka, Tetsuya Sado, Hiroshi Senou, Koichi Shibukawa, Tomoki Sunobe, Hiroshi Takahashi, Koji Takayama, Katsuhiko Tanaka, Hisashi Yamakawa, Satoru Yokoyama, Seokjin Yoon, Michio Kondoh*
掲載誌:科学総合誌『Scientific Reports』(Springer Nature社)
DOI:10.1038/s41598-025-31307-4
掲載日:2026年2月16日(オープンアクセス)
研究資金:JST CRESTプログラム(JPMJCR13A2)、JSPS科研費(JP19H05641, JP20H03311, JP21H03651, JP21K15171)
※本研究は文部科学省による「世界トップレベル研究拠点プログラム」に認定された「変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)」の活動の一部として実施した。
https://wpi-aimec.jp/
※本論文は『東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』 の支援を受け、オープンアクセスとなっている。

今回の研究成果に関して、山中裕樹教授(本学先端理工学部/生物多様性科学研究センター長)のコメントを紹介します。

山中裕樹教授(本学先端理工学部/生物多様性科学研究センター長)

「この研究のための調査を実施した2017年当時、これほどの規模の環境DNA調査は前例がなく、採水を実施する全国のチームが統一された方法できっちりと調査が実施できるように、細心の注意を払って準備しました。本当に最高のチームワークでした。今は調査資材もキット化されたものが出てきていたり、近い将来には自動でのサンプリングが普通になるでしょうし、急速に生物多様性情報の取得の簡便化・自動化が進展しています。得られたデータが本研究で活用されたような手法を通して常時解析されるようになれば、自然資本の管理にとって価値のあるインフラになると思います。」