琵琶湖固有の魚食魚「ハス」の個体群減少を確認 ―13年間の釣り調査と環境データ解析が示す生態系変化―【生物多様性科学研究センター】
2026.03.11 |
頂点捕食者ハスの減少が示す、琵琶湖生態系の変化
琵琶湖・淀川水系に固有のコイ科魚類「ハス(Opsariichthys uncirostris)」の個体群が長期的に減少傾向にあることを示す研究成果が、北海道教育大学 未来の学び協創研究センターの今村彰生准教授と、龍谷大学先端理工学部の丸山敦教授(生物多様性科学研究センター兼任研究員)の共同研究で明らかになりました。
本研究は、国際学術誌「Aquaculture, Fish and Fisheries」(Wiley社)に2026年2月26日付で掲載されました。
▶参照:プレスリリース(2026年3月10日配信)
◉琵琶湖の生態系機能を支える「頂点捕食者(トッププレデター)」の減少
ハスは、コイ科魚類では日本で唯一、他の魚を積極的に追って捕食する魚食魚として知られています。琵琶湖の食物網で頂点捕食者として機能し、餌となる魚類の個体数を調整することで生態系のバランスを保つ重要な役割を担っています。
しかし、近年ハスの漁獲量は大きく減少しており、1970年代には年間100~150トンであったものが、近年では6~12トン程度まで低下しています。こうした状況から、本種は環境省レッドリストで絶滅危惧II類(VU)に分類されているものの、同じ琵琶湖のホンモロコ(IA類)ほど危惧されていません。
一方で、漁獲量の減少が必ずしも個体数減少を意味するとは限らないため、漁獲統計とは独立した方法による個体群評価が求められていました。
◉13年間の「釣り調査」から個体群の動向を解析
本研究では、2011年から2023年にかけて琵琶湖沿岸で実施したルアー釣り調査データを用い、ハスの個体群動向を評価しました。約110kmの湖岸線で調査を行い、457地点、721件の観察記録を統合して分析しました。
その結果、ハスの検出確率は過去13年間にわたり低下していることが明らかになりました。特に2017年前後を境に急激に低下しており、2017年以前は約0.6であった検出確率が、2017年以降は約0.2程度まで低下していました。この結果は、滋賀県の漁獲統計で指摘されてきたハスの減少傾向を、独立した方法によって裏付けるものです。
さらに、ハスは砂や礫からなる湖底を好むことや、湖岸の特定地域で分布に偏りがあることなど、湖岸環境と個体群分布の関係も確認されました。

ハスの口元には使用したスピナー型のルアー(Myran社製)が写っている。
◉気候変動が個体群減少に関与する可能性
さらに、本研究では近年の気候要因として、水温上昇や湖水位の低下が本種の減少に関与している可能性についても検討しました。過去13年間、琵琶湖の水温は上昇傾向にあり、特に25°Cまたは30°Cを超える高水温は、2016年、2019年、2020年、2021年に頻繁に観測され、2017年前後の検出確率の低下とも一致しています。
ハスは小魚を追って活発に泳ぎながら捕食する魚であるため、酸素消費量が多いと考えられています。水温上昇は溶存酸素量の低下を引き起こす可能性があり、こうした環境変化が生理的な負担となっている可能性があります。また、水位低下は湖と流入河川の接続を弱め、繁殖期に河川へ遡上するハスの移動を妨げる要因となる可能性も指摘されています。
琵琶湖では近年、一部の在来魚種で回復傾向が報告されている一方、ハスのような頂点捕食者では減少が続いています。本研究は、長期フィールドデータをもとに、琵琶湖生態系の変化と気候要因との関係を示す重要な成果です。今後、餌資源であるアユ等との関係や環境変化の影響を解明することで、琵琶湖の生物多様性保全に向けた知見の蓄積が期待されます。
【発表論文】
タイトル:Persistent Decline of the Piscivorous Cyprinid, Opsariichthys uncirostris, in Lake Biwa Despite Recovery Trends Among Other Native Species
著者:
• 今村彰生(北海道教育大学 未来の学び協創研究センター 准教授)― 研究統括、現地調査、データ解析、論文執筆
• 丸山敦(龍谷大学 先端理工学部 教授)― データ解析、論文執筆
掲載誌:国際学術誌「Aquaculture, Fish and Fisheries」(Wiley社)
DOI:https://doi.org/10.1002/aff2.70200
掲載日:2026年2月26日(オープンアクセス)
研究資金:JSPS科研費(JP16K00630)
今回の研究成果に関して、当センターの丸山敦教授のコメントを紹介します。

◉丸山敦教授(本学先端理工学部/生物多様性科学研究センター兼任研究員)
「われわれ研究者には、つい最新技術を追い求めてしまう性がありますが、釣りのように昔ながらのアプローチでも、蓄積によって貴重な情報が得られることが実感できる研究でした。とはいえ、減少が止まらない原因など、分かっていないことの方が多いのが、生物多様性を守る現場の現状です。琵琶湖の生物多様性とその機能を、高く維持する知恵を絞っていきたいです。」