環境DNAによる「イチモンジタナゴ復元放流」モニタリング
◉プロジェクトの背景と概要
イチモンジタナゴ(学名:Acheilognathus cyanostigma)は、コイ科タナゴ亜科に属する純淡水魚で、平野部の川や湖沼、ため池に主に生息し、国のレッドリストで絶滅危惧IA類に選定され最も絶滅が危ぶまれている淡水魚類の1種です。
イチモンジタナゴは、生息環境の改変や外来魚による食害などにより、すでに琵琶湖周辺では絶滅に近い状態にあります。このため、滋賀県では「ふるさと滋賀の野生動物との共生に関する条例」に基づいて指定希少野生動植物種に指定され、採集や飼育などが規制されています。

滋賀県のイチモンジタナゴを保全するためには、復元放流の必要があることから、当センターの研究員が学術面で関わる市民団体「ぼてじゃこトラスト」1)が中心となり、滋賀県下での「イチモンジタナゴ復元放流」プロジェクトが2017年より始まっており、さらに環境DNAによるモニタリング調査が2025年より始動しました。
復元放流に向けての検討過程では、日本魚類学会が策定した「生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン(2005年)」に則り、「再導入」(ある種がもともと自然分布し、絶滅してしまったところに、放流により集団を復元させようとすること)にあたる方法が選択されました。また、放流個体群は、琵琶湖から疏水を通じて分散したと考えられている平安神宮由来のものです。これまで滋賀県立琵琶湖博物館が継代飼育していた個体群を、「ぼてじゃこトラスト」が譲り受けて保全池で繁殖させたものであり、出自が明確です。
イチモンジタナゴの復元放流後には、放流場所における生息状況(生残、繁殖など)や生態系への影響に関するモニタリングを行う必要があります。このモニタリングは当センターとの共同で実施しており、従来の捕獲調査よりも高い感度かつ広範囲のモニタリングが可能な「種特異的環境DNA調査」を用いています。このイチモンジタナゴの種特異的検出系は、龍谷大学 生物多様性科学研究センターと滋賀県立琵琶湖博物館の研究メンバーらが開発したもので、野外での実証実験の結果をふまえ、その成果を国際学術誌Conservation Genetics Resourcesにおいて公表しています(2026年1月)。

滋賀県下での放流後、「ぼてじゃこトラスト」と共同で水試料の採取によるモニタリングを毎月継続しており、現時点で毎月、イチモンジタナゴのDNAが検出されています。今後も陽性反応の変動を解析し、イチモンジタナゴの定着、繁殖の可否を検討していきます。
◉プロジェクトメンバーのコメント

「生きものを守るためには、守りたいと思う人たちだけではできません。まず、地域の人に生きものの現状や大切さを知ってもらい、自分たちの住む街を良くしていきたいという思いを共有することができて初めて保全活動が動き出します。イチモンジタナゴの野生復帰プロジェクトが動き出すことができたのも、こういった地域の理解があったからこそです。実際に滋賀県のイチモンジタナゴを復元できるかはまだわかりません。しかし、関心を持ち、関わる人が増えていくと、必ず成功すると信じています。豊かな琵琶湖を取り戻す活動にさらに多くの人が関わってくれることを期待しています。」

「絶滅危機にあるイチモンジタナゴの保全に役立てたいと思い、環境DNA検出系を開発しました。今回、ぼてじゃこトラストさんの協力で保全の現場に役立ち、大変うれしいです。毎月の広範囲モニタリングを可能としているのは、『ぼてじゃこトラスト×環境DNA』による成果だと思っています。得られたデータは学術的にも貴重ですので、さらにイチモンジタナゴの保全に活かせるように、引き続き研究を続けていきます。」

「環境DNA分析は、目視や捕獲が困難な場合に生き物の存在を確かめる方法として優れています。駆除後の外来種が残っていないかや、放流後の希少種がきちっと定着しているのかなど、保全の場ではいろいろな活用方法があります。今回の種特異検出系がボテジャコたちの保全に有効に使われようとしているのは大変喜ばしいことです。」
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▶ 本モニタリングに関連するNewsについては、下記をご覧ください。
・2026.01.29 News:絶滅危惧種イチモンジタナゴの「地域系統」を見分ける環境DNA解析の新技術を開発
【補注】
1)ぼてじゃこトラスト
「ぼてじゃこトラスト」は、平成8(1996)年に琵琶湖淀川水系 の小魚が棲める豊かな自然環境を守ることを目的に設立した市民団体。「ぼてじゃこ(タナゴ類)」が再び棲めるような環境を取り戻すため、イチモンジタナゴをシンボルとした生態系保全と、ぼてじゃこ文化を次世代につなげるワンパク塾を軸に活動を行っている。なお、令和6(2024)年4月には、滋賀県の「生物多様性しが戦略 2024」にかかる取組として、「希少な生きものの保護増殖事業」に認定された。
https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5580059.pdf
https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5469743.pdf